地方企業が移住人材を採用し、地域に定着させるための具体的なステップと自治体連携のポイント
地方の中小企業にとって、少子高齢化や若年層の都市部への流出は深刻な人手不足の原因となっています。こうした状況において、都市部からの移住者や地方へのUIJターン希望者は、新たなスキルや経験、多様な視点をもたらす貴重な人材となり得ます。しかし、移住人材の採用には、企業側が都市部の候補者へ適切にアプローチし、また採用後には地域社会へのスムーズな定着を支援するための独自の工夫が求められます。
地方自治体の職員の皆様におかれましても、地域内の企業の採用力向上や移住促進政策の効果を最大化するためには、企業が移住人材をうまく受け入れ、地域に定着させるための具体的な方法論を理解し、適切な支援策や情報提供を行うことが重要となります。
本記事では、地方企業が移住人材の採用を成功させるための具体的なステップと、採用した人材が地域に根ざし長期的に活躍するための定着支援策、そして自治体ができる企業への支援や連携のポイントについて解説します。
地方企業が移住人材を採用するためのステップ
移住人材の採用は、単に求人情報を出すだけでは難しい場合が多くあります。候補者は仕事だけでなく、生活環境や地域社会全体に関心を持っているため、企業はより包括的な視点で採用活動を進める必要があります。
- 採用戦略の見直しとターゲットの明確化
- 企業の魅力の再定義: 都市部の大企業にはない、地方企業ならではの魅力（例：仕事の裁量権が大きい、地域貢献の実感、落ち着いた生活環境、新鮮な食材など）を言語化し、移住希望者に響く訴求ポイントを明確にします。
- 求める人物像の設定: 移住を決断する候補者は多様です。Uターン、Iターン、Jターン、家族での移住、単身での移住など、様々な背景を持つ人々の中から、自社の文化や仕事内容に合う人物像を具体的に設定します。特定のスキルや経験だけでなく、地域社会への関心や適応力といった視点も重要です。
- 効果的な情報発信と募集活動
- 移住者向けの情報媒体活用: 地方自治体が運営する移住相談窓口、移住情報サイト、移住フェア、地域の情報誌など、移住希望者が情報収集に利用する媒体を積極的に活用します。自治体と連携し、求人情報だけでなく企業の雰囲気や地域の魅力をセットで発信する工夫が求められます。
- オンラインでの情報提供強化: 遠方にいる候補者向けに、企業のWebサイトや採用ページを充実させ、業務内容、社員インタビュー、職場の雰囲気、福利厚生などを詳しく掲載します。オンラインでの会社説明会や個別相談会を実施することも有効です。
- 地域との連携による魅力発信: 企業単独でなく、地域住民や他の事業者と連携し、地域の暮らしや文化、食といった「仕事＋α」の魅力を伝える情報発信を行うことで、候補者の移住への不安を軽減し、関心を高めることができます。
- 選考プロセスの工夫
- オンライン面接の活用: 遠方の候補者が応募しやすいように、一次面接などにオンライン面接を導入します。
- 地域・生活情報の提供: 面接や面談の際に、仕事内容だけでなく、通勤手段、住居情報、子育て環境、地域の施設といった生活に関する具体的な情報を提供します。可能であれば、候補者の希望に応じて、企業側が地域の情報提供をサポートする体制を整えます。
- 体験機会の提供: 可能であれば、リモートワークでの試用期間や、短期間のワーケーション、現地での職場見学などを提供し、仕事内容や職場の雰囲気を事前に体験してもらう機会を設けることも有効です。
移住人材が地域に定着するための支援策
採用後の定着支援は、移住人材が企業で長く活躍し、地域社会に根ざしていくために不可欠です。企業と自治体が連携して取り組むことで、より効果的な支援が可能となります。
- 入社後の手厚いフォローアップ
- オリエンテーションとメンター制度: 入社後、企業の事業内容や文化、地域に関する基本的な情報を丁寧に伝えるオリエンテーションを実施します。また、既存社員をメンターとして付け、業務だけでなく地域生活の相談にも乗れるような体制を整備します。
- 住居支援: 移住先での住居探しは大きなハードルとなることがあります。社宅の提供、借り上げ社宅制度、住宅手当の支給、不動産業者の紹介など、企業ができる範囲での住居支援は定着に大きく貢献します。
- 地域社会との接点作り: 地域のイベント情報提供、地域住民との交流機会の設定、自治会活動への参加支援など、企業が地域との接点作りをサポートすることで、移住者が孤立することなく地域に馴染むことができます。
- 多様な働き方への理解と環境整備
- 移住人材の中には、リモートワークやフレックスタイムなど、柔軟な働き方を希望する人もいます。可能な範囲で多様な働き方を導入・検討し、ワークライフバランスを重視する移住人材のニーズに応えることも定着に繋がります。
- キャリアパスの提示と育成
- 移住者が企業で長期的なキャリアを築けるように、明確な評価制度や昇進・昇格の機会、スキルアップのための研修制度などを整備し、将来への展望を示すことが重要です。
自治体ができる企業への支援と連携のポイント
地方自治体は、移住人材の採用・定着において、企業を支援し地域全体の受け入れ体制を整備する重要な役割を担います。
- 企業向けの情報提供と啓発活動
- 移住人材採用のメリット、採用手法、他地域や企業の成功事例などをまとめた情報提供（セミナー、ハンドブック作成など）を行います。
- 企業が移住人材を受け入れる際に考慮すべき点（文化の違いへの理解、生活面のサポートなど）について啓発します。
- 移住希望者と企業の間の橋渡し
- 自治体の移住相談窓口に寄せられる移住希望者の情報と、地域企業の求人ニーズをマッチングさせる仕組みを構築します。
- 合同企業説明会や個別面談会など、移住希望者と企業が直接交流できる場を企画・運営します。
- 自治体施策との連携
- 移住者向けの住宅補助、引越し費用の助成、子育て支援、起業支援といった自治体の既存施策を企業に情報提供し、企業の採用・定着支援と連携させます。
- 移住者向けの交流イベントや、地域住民との交流促進イベントなどを企画し、企業が従業員の地域定着支援に活用できるようにします。
- 地域全体での受け入れ機運醸成
- 地域住民に対して、移住者が地域にもたらす価値や、共に地域を盛り上げていく仲間であるという理解を深めるための啓発活動を行います。企業任せにせず、地域全体で移住者を温かく迎え入れる雰囲気を醸成することが、定着率向上に繋がります。
まとめ
地方の中小企業が移住人材を効果的に採用し、地域に定着させるためには、従来の採用活動に加え、移住希望者のニーズや特性を理解した上での戦略的なアプローチと、仕事だけでなく生活全般をサポートする視点での手厚いフォローアップが不可欠です。
そして、地方自治体の職員の皆様には、地域企業への具体的な情報提供やノウハウ共有、自治体の移住関連施策と企業の採用・定着支援との連携強化、そして地域全体での温かい受け入れ環境づくりにおいて、中心的な役割を担っていただくことが期待されます。
企業と自治体がそれぞれの強みを活かし、密に連携することで、移住人材は地方でその能力を最大限に発揮し、企業の成長と地域の活性化に大きく貢献してくれる存在となるでしょう。