地方中小企業が副業・兼業人材を活用するためのステップと自治体ができる支援策
地方における中小企業の人手不足は深刻な課題であり、その解決策の一つとして、近年注目されているのが「副業・兼業人材」の活用です。都市部など地域外に在住する専門スキルを持った人材や、地域内の特定のスキルを持つ人材を、必要な時だけ業務委託やプロジェクト単位で活用することは、地方中小企業にとって新たな可能性を広げます。
このアプローチは、正社員採用に比べてコストやリスクを抑えつつ、特定の課題解決や新規事業の推進に必要な知見・スキルを得られるというメリットがあります。また、移住を伴わない形での地域との関わりを生み出し、将来的な関係構築や移住への足がかりとなる可能性も秘めています。
本記事では、地方の中小企業が副業・兼業人材を円滑に活用するための具体的なステップと、その取り組みを後押しするために自治体ができる支援策について解説します。地域経済の活性化や多様な人材の受け入れ促進に貢献するためにも、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
副業・兼業人材活用のための具体的なステップ
地方中小企業が副業・兼業人材の活用を成功させるためには、計画的かつ段階的に進めることが重要です。以下のステップを参考に検討を進めることが推奨されます。
ステップ1:活用目的と業務内容の明確化
まず、なぜ副業・兼業人材を採用したいのか、その目的を明確にします。 * 人手不足を解消したいのか * 特定の専門スキル(例:Webマーケティング、デザイン、IT、財務、法務など)が必要なのか * 新規事業立ち上げに際し、社内にない知見を取り入れたいのか * 既存社員の負担を軽減したいのか
目的を明確にした上で、「どのような業務を、どのようなスキルを持つ人材に、どのくらいの期間、どの程度の頻度で任せたいのか」を具体的に洗い出します。業務内容が曖昧なまま募集しても、期待するスキルを持つ人材とマッチングすることは困難です。業務範囲、成果物のイメージ、必要とされるスキルレベル、勤務時間や場所(オンラインかオフラインか)などを詳細に定義します。
ステップ2:募集方法の検討と実行
目的と業務内容が明確になったら、適切な募集方法を選びます。地方企業の場合、大手求人サイトではリーチしにくい専門人材や地域外の人材を探すために、以下のような方法が考えられます。 * 副業・兼業マッチングプラットフォームの活用: 外部サービスに登録し、求人情報を掲載します。様々なスキルを持つ人材が登録しており、条件に合う人材を探しやすいメリットがあります。手数料や利用規約を確認します。 * 地域のネットワークやコミュニティ: 商工会、金融機関、地域の大学、移住者コミュニティなどに相談し、情報を共有してもらうことも有効です。 * ソーシャルメディアや自社ウェブサイト: 自社の取り組みや募集内容を積極的に発信することで、共感した人材からの応募を促します。 * 自治体の相談窓口や事業の活用: 自治体が設けている人材確保の相談窓口や、副業・兼業を推進する事業があるか確認し、活用します(自治体支援策の項で後述)。
募集する際は、ステップ1で明確にした業務内容、必要なスキル、報酬、契約形態(業務委託契約が一般的かなど)、働く条件などを正確かつ魅力的に伝えます。
ステップ3:選考と契約締結の注意点
応募があった人材との選考は、オンライン面接などを活用することで地理的な制約を減らすことができます。スキルや経験はもちろん、業務内容への理解度やコミュニケーション能力を確認します。
重要なのは契約締結です。 * 契約形態: 雇用契約ではなく、多くの場合「業務委託契約」となります。業務の遂行方法や時間管理について、指揮命令権がないことなどを明確にします。 * 業務内容と成果物: 委託する業務内容、期待する成果物、納期などを具体的に契約書に記載します。 * 報酬: 業務内容やスキルに応じて、時間単価、日額、プロジェクト単位など、合意した報酬体系を明確にします。支払い条件(いつ、どのように支払うか)も定めます。 * 秘密保持契約(NDA): 企業の機密情報や顧客情報に触れる可能性がある場合は、秘密保持契約の締結が必須となります。 * 知的財産権: 業務を通じて発生した成果物(資料、デザイン、コードなど)の知的財産権の帰属についても、契約で明確に定めておく必要があります。
これらの契約内容は、後々のトラブルを防ぐために非常に重要です。必要に応じて専門家(弁護士、税理士など)に相談することも検討します。
ステップ4:受け入れ体制の整備とコミュニケーション
副業・兼業人材がスムーズに業務を開始し、能力を発揮できるような受け入れ体制を整えます。 * 情報共有: 業務に必要な情報(資料、アクセス権限など)を適切に共有する仕組みを作ります。 * コミュニケーションツール: チャットツールやオンライン会議システムなどを活用し、定期的な進捗確認や質疑応答ができる体制を整えます。 * 担当者の設置: 社内で副業・兼業人材との連絡窓口となる担当者を決め、質問や懸念に迅速に対応できるようにします。 * 目標設定と評価: 業務委託契約であっても、業務の目標設定や成果の確認を行うことはモチベーション維持や効果的な活用に繋がります。
副業・兼業人材は社内文化や業務プロセスに慣れていない場合が多いです。丁寧にオンボーディングを行い、円滑なコミュニケーションを心がけることが定着と成果に繋がります。
地方中小企業における副業・兼業人材の活用事例(想定)
いくつかの典型的な活用事例を紹介します。
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事例1:Webマーケティング強化
- 課題:自社ウェブサイトからの集客が伸び悩んでいるが、専任のWebマーケターを正社員で雇う予算がない。
- 活用:都市部のWebマーケティング経験者に副業で業務を委託。月に数回のオンラインミーティングと日々のチャットでのやり取りで、ウェブサイト分析、SEO対策、SNS広告運用などのアドバイスや実務を依頼。
- 成果:ウェブサイトへのアクセス数と問い合わせ数が増加。社内担当者も実務を通じてマーケティングの知識を習得。
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事例2:新規商品開発の知見導入
- 課題:新しい地域特産品を開発したいが、商品企画やブランディングのノウハウが社内に不足している。
- 活用:食品業界での商品企画・ブランディング経験が豊富な人材に、プロジェクト期間中のみアドバイザーとして参画を依頼。企画段階での市場調査、ターゲット設定、コンセプト作りに関する助言を受ける。
- 成果:専門家の視点を取り入れることで、より市場ニーズに合った魅力的な商品コンセプトを設計できた。試作品開発もスムーズに進行。
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事例3:デザイン・広報物作成
- 課題:会社のパンフレットや商品のパッケージデザインを刷新したいが、外部のデザイン会社に依頼するほどの予算はない。
- 活用:フリーランスで活動しているデザイナーに副業でデザイン業務を委託。オンラインでの打ち合わせを重ね、会社のイメージに合ったデザインを比較的安価で実現。
- 成果:魅力的な広報物が完成し、対外的なイメージアップや販促活動に貢献した。
これらの事例は、副業・兼業人材が特定の課題解決や専門業務において有効な手段となり得ることを示しています。
自治体ができる副業・兼業人材活用への支援策
自治体は、地域内の企業が副業・兼業人材を円滑に活用できるよう、様々な面から支援を行うことが可能です。
- 情報提供・啓発活動: 副業・兼業人材活用のメリット、具体的な手法、成功事例などをまとめたハンドブックやウェブサイトを作成したり、企業向けセミナーや説明会を開催したりすることで、企業の関心を高め、活用へのハードルを下げます。
- 専門家による相談窓口の設置: 契約形態、報酬設定、労務管理など、企業が不安に感じやすい点について、弁護士や社会保険労務士などの専門家が相談に乗れる体制を整備します。
- マッチング機会の創出: 自治体自身が副業・兼業人材と地域企業を繋ぐマッチングプラットフォームを運営したり、民間のプラットフォーム事業者と連携したりする事業を実施します。地域の企業ニーズと外部人材のスキルを把握し、効果的なマッチングを支援します。
- 活用促進のための補助金・助成金: 副業・兼業人材に支払う報酬の一部や、マッチングプラットフォームの利用料などを補助する制度を設けることで、企業が第一歩を踏み出しやすくなります。特に、専門的なスキルを持つ人材の活用に特化した補助金などが考えられます。
- 移住・定住支援との連携: 副業・兼業での関わりが、将来的な移住や地域への定着に繋がる可能性を視野に入れ、関係人口創出の取り組みと連携させます。副業・兼業で関わる中で地域の魅力に触れてもらう機会を設けたり、移住に関する情報を提供したりすることも有効です。
- 成功事例の収集と横展開: 地域内で副業・兼業人材活用に成功している企業の事例を収集し、他の企業に情報提供することで、具体的なイメージを持ってもらい、取り組みを促します。
これらの支援策を組み合わせることで、地域全体として副業・兼業人材を受け入れやすい環境を整備し、企業の持続的な成長と多様な働き方の推進を後押しすることが期待されます。
まとめ
地方の中小企業にとって、副業・兼業人材の活用は、人手不足の解消、社内にない専門スキルの獲得、新規事業の推進など、多くのメリットをもたらす可能性を秘めています。活用にあたっては、目的と業務内容の明確化、適切な募集方法の選択、そして契約内容の明確化と受け入れ体制の整備が成功の鍵となります。
そして、この取り組みを地域全体で推進していくためには、自治体の積極的な支援が不可欠です。情報提供、相談体制の構築、マッチング支援、経済的な補助、そして成功事例の共有などを通じて、企業が安心して副業・兼業人材を受け入れられる環境を整備していくことが求められます。
副業・兼業という新しい働き方を取り入れることは、企業にとっても地域にとっても、多様な人材との繋がりを生み出し、持続可能な発展に繋がる重要な戦略の一つとなるでしょう。